ぽたり、と。大粒の涙が零れ落ちる。それを優しく指で拭ってから、メリフェトスは心から幸せそうに微笑んだ。

「幸せです、アリギュラ様」

 ――彼は想う。

 王であり、友であり。肉親のようでもあり、半身のようでもあり。自分が彼女に抱く感情を、言い表せる言葉は存在しない。そう思っていた。けれども、この感情の名を、この世界に来て初めて知ることが出来た。四天王西の天、一生の不覚だ。

 ああ、そうだ。彼女はメリフェトスのすべてだった。

「幸せだったんです、あなたと出会えて」

 視界が霞んできた。それをひどく残念に、彼は思う。最期に彼女の、笑顔を焼き付けてから逝きたかった。

 彼女の自信に満ちた笑みが大好きだった。どんな時も太陽のように輝く無邪気な表情が、たまらなく愛おしかった。

 けれどもそれは、過ぎた望みだろう。こうして別れの挨拶ができただけでも、奇跡に近しいことなのだから。

「ありが、とう」

 長いまつ毛に縁どられた目が、ゆっくりと閉じる。

 ぱたり、と。軽い音を立てて、メリフェトスの手が彼の胸に落ちる。