お別れの時間です。

 その言葉は、はっきりとアリギュラの耳に届いた。

 にもかかわらず、アリギュラはその意味をうまく呑み込めずにいた。

「な、んの冗談じゃ?」

 笑い飛ばそうとして失敗した。それでもアリギュラは、メリフェトスが応えて肩を竦めてくれることを期待した。

 アリギュラがいっぱいいっぱいになったり、癇癪を起して暴れているとき。彼はいつも、そうやってアリギュラを宥めてくれた。仕方ないなとため息を吐き、手がかかる主だと苦笑を浮かべ、落ち着くまでそばで待っていてくれる。

 けれどもメリフェトスは、そうしなかった。ただただ静かに、まっすぐにアリギュラを見上げる。そして、微かに緊張を滲ませて口を開いた。

「我が君に、ずっと黙っていたことがあります」

「……いやじゃ」

「私がこの世界の女神の前に飛ばされた際。私は女神と、ひとつ取引をしました」

「いやじゃ! 聞きたくない!」

「我が君」

 両手で耳を塞ぎ、目をぎゅっと閉じる。

 そんなアリギュラの頬に、そっと温かな指先が触れた。