ビキビキと、カイバーンの剣にひびが入っていく。その向こうで、カイバーンが目を血走らせてメリフェトスを睨んだ。
「なぜだ! だったらなぜ、アリギュラが来るまえに聖剣を出さなかった!?」
「この瞬間を待っていたからだ」
剣に力を込め、メリフェトスが答える。さらにもう一段階、ロスロリエンに大きな亀裂が入った。
「貴様はきっと、光の剣を警戒しているはず。だから、あえて先程は聖剣以外の力で対抗し、私がまだ聖女の祝福を受けていないと思い込ませた。……お前は必ず、口付けの瞬間を狙ってくる。その瞬間が逆に、反撃の狙い目になるだろうからな!」
「な、な、なっ…………」
カイバーンは絶句をした。
メリフェトスは善戦した。だが、カイバーンと彼では、うちに秘める魔力量はまるで違う。半魔の姿で応戦したメリフェトスに策を練る余裕はなかったはずだ。
(それすらもフェイクだったというのか!?)
――いや、違う。たしかに自分は、メリフェトスを圧倒していた。
ならば答えは一つ。命を削るギリギリの攻防の中で、彼は張り詰める一本の糸のように感覚を研ぎ澄ました。そして、たったひとつの勝機を見定め、罠をしかけてきたのだ。
アリギュラが――自分の主である王が、必ずすぐに駆けつけてくれる。そう、微塵も疑わずに。