アリギュラは素早く、片手を天井に掲げた。
 
「走れ! 『覇王の鉄槌!』」

 眩い稲光が、轟音を立てて洞窟内を真横に駆ける。直後、弾けるようにして壁が崩れた。

 アリギュラたちを踏み潰さんとばかりに、降り注ぐ瓦礫の山。襲い来るそれらに、カイバーンは目を見開いた。

「ば、気でも狂ったか!?」

 ――叫びながら、カイバーンは得心した。

 洞窟が崩れ始めた途端、アリギュラは粉塵の奥へと飛び退った。おそらく目眩しのつもりなのだろう。事実、次々に落ちる瓦礫や、それによって舞う粉塵のせいで、彼女を見失ってしまった。

(正面からやり合っても勝ち目はない。そうやくそれを、認めたようだな)

 にやりと、勇者は邪悪に笑う。

 けれども無駄だ。たしかに視界は奪われたし、次々に落ちてくる岩によって広い足場がなくなったのも厄介だ。けれどもそれは、近接戦の場合に限る。

 剣一筋だったかつての自分とは違う。いまの彼には、魔王サタンから引き継いだ、新たな力があるのだから。