「それにだ」

 絶句するカイバーンに、アリギュラはびしりと指を突き付ける。そうして彼女は、実に魔王らしく意地悪い笑みを浮かべた。

「最近、こっちでの生活に愛着が出てきてな。両手の指で数えられる程度だが、気に入った人間もいる。だから、今の生活を守れるぐらいには、おぬしをぶちのめさなくてはならぬ」

「アリギュラ様……」

 隣で、メリフェトスが息を呑む。そして、なぜだか泣きそうな顔で微笑んだ。

 キャロラインにジーク。アランやルリアン。ルーカスにクリス。当初は関わるのも面倒くさくて避けてきた、今では友と呼べる異界の人間たち。

 そして、もちろん。

(お前もだ、メリフェトス)

 ちらりと隣をみやり、アリギュラは唇を吊り上げる。

 魔族であろうと人間であろうと、変わらず傍に立ち支えてくれた、腹心の部下にして相棒。はじめて手を取り合った、唯一無二の親友。

 このまま人間として、人間の世に馴染んで生きていく。正直、そんな自分に戸惑う部分もあった。けれどもメリフェトスが一緒なら、それも案外悪くない。
 
 これまでだって、二人でゼロからやってきたのだから。