アリギュラはディルファングを手で弄びながら、淡々と続ける。
「おぬしこそ忘れたか。異界の人間どもがどうなろうが、わらわの知ったことじゃない。グズグリのときは興が乗ったから追っ払ったが、もともとわらわのやる気はゼロじゃ」
「それは……っ」
「そもそも我らは魔族じゃ。魔族が人間のために戦うなんて、おかしなことであろう? おぬしも、人間は好きになれないといったではないか」
メリフェトスの青紫色の目が泳ぐ。やがて彼は、苦悩するように眉根を寄せた。
「アリギュラ様の、仰せの通りです」
ですが、と。メリフェトスは絞り出すように呟いた。
「それでも私は、あなたに生きて欲しい。たとえ人間に手を貸すことになろうと、最終的にあなたが救われるのであれば、私は力を尽くしたいのです」
アリギュラは答えなかった。苦悩に顔を歪ませるメリフェトスからは目を逸らしたまま、彼女はまっすぐにカイバーンを見上げていた。
「相談は終わったかな?」
薄く笑って、カイバーンは両手を広げた。