「勇者もまた、新しい世界の覇権を狙っている。そんな愚かしい妄想を、彼らは抱いた。世界を救ったはずの私たちは、一転して終われる身となった。最初にやられたのは魔術師だった。次に剣士。最後は聖女だ。彼女は、私を庇って矢を受けたんだ……」
両手で顔を覆い、カイバーンは低く唸る。怒りと悲しみにしばらく震えていた彼だったが、やがてだらりと手を下ろした。
「最終的に、私も奴らの手にかけられた。だが死んだと思ったその時、私は不思議な光に包まれた。強く眩しい、純白の光だった。意識を取り戻したとき、私は仰天したよ。なにせ私は、魔王として目覚めていた。この世界に封印されていた、魔王サタンの体を奪ってな!」
「そんな、馬鹿な……!」
驚愕し、アリギュラは叫んだ。そんな主をちらりと見て、メリフェトスが首を振る。
「あり得ない話ではありません。我々がこの世界に飛ばされたとき、カイバーンもすぐ近くにいました。奴も召喚魔術にかかっていたのでしょう。おそらくですが、魔術の発動条件は元の世界での死。だから奴だけ、数年遅れでこちらに飛ばされたのでしょう」
「だが、奴は勇者だぞ! 魔王を滅ぼした勇者の魂を、異界の魔王の体に入れるなど」
「それを言ったら君も同じだ、アリギュラ。まさかアーク・ゴルドを恐怖と混乱の渦に堕としたお前が、異界では聖女としてあがめられているなんてね」