と、その時、暗がりの奥からゆっくりと手を叩く音が響いた。

「さすがだ。まさか、いまのを避けられるとはね。だてに、聖剣の預かり手に選ばれてはいないな」

 いや、ちがうかと。何者かは暗闇の奥で、そう唇を吊り上げた。

「さすが魔王軍最高幹部、四天王のリーダーと言うべきかな」

「なにっ!?」

 思わずメリフェトスは目を見開き、息を呑んだ。そのせいで一瞬反応が遅れた。ざらりと毛が逆立つ予感に、メリフェトスは大きく飛び退る。おかげで再び飛んできた矢の大半から逃れることが出来たが、ほんの数本、避け損ねた矢が頬や腕、足を掠めた。

 強い魔力が込められているからだろう。傷の浅さに見合わず、鋭い激痛が腕や足に走る。それでもメリフェトスは顔を歪めるだけで、体制を整え持ち堪える。

 負傷したのとは反対の手で傷口を押さえる。半魔の姿に変わっても、やはりベースは人間。アーク・ゴルドにいたときより、格段に身体が脆い。

そのことを実感しつつも、メリフェトスは悪魔の幹部らしい好戦的な笑みを浮かべた。