メリフェトスは答えない。ただ、困ったような顔でこちらを見返すだけ。焦れたアリギュラは、白い装束に包まれたメリフェトスの腕を掴み、身を乗り出して彼を見上げた。

「メリフェトス。おぬしは、これからもわらわの隣にいるんだろう? ずっと、わらわの一の臣下であろう?」

なぜだろう。何か重要なことを見逃している気がする。このままでは永遠に、メリフェトスを失ってしまうかのような――。

 その時だった。

 掴まれているのとは反対の手で、メリフェトスがアリギュラの顎に手を添える。わずかに上向かせたアリギュを包み込むように、メリフェトスが静かに覆い被さる。

 そうやって、優しく、愛しく、まるで壊れ物に触れるかのように慎重に、メリフェトスの唇がアリギュラに触れた。

 ――どれぐらいそうしていただろうか。永遠のような一瞬の後、触れた時と同じく、メリフェトスが静かに離れていく。

 初めてのときの悪戯っぽい感じとも、それ以降の作業じみた口付けとも違う。大事に大切に慈しむような、想いのこもったキス。

 なにが起こったのか分からず、ぽかんとアリギュラはほうける。そんな主人を静かに見下ろし、メリフェトスはゆっくりと瞬きをする。