――不意に黙り込んでしまった主を、メリフェトスは不思議そうに眺めている。けれども軽く肩を竦めた彼は、切長の目を原っぱでめいめいに寛ぐ人間たちへと向けた。
そして彼は、明るい調子でこう続けた。
「ですが、ホッとしている面もあります」
「ホッと? それはなぜじゃ」
「我が君はここで、生きていかなければなりませんから」
柔らかな風が、二人の間を駆け抜ける。ヘーゼルナッツ色の髪を揺らすメリフェトスを、アリギュラはまじまじと見上げた。その視線に気づいていないのか、メリフェトスはのんびりと目を細める。
「『まほキス』のエンディングを迎えれば、我が君は晴れてこの世界に迎え入れられます。この先も人間として、聖女として、エルノア国で過ごすのです。その時に、味方と呼べる人間がひとりでも多い方が、私も安心ですから」
「なにを、言っているのだ?」
ほんの少し、声が震えてしまった。主人の異変に気づいたメリフェトスが、こちらに視線を向ける。青紫色と、赤い瞳。ふたつが交わる中、アリギュラはどうにか笑おうとした。
「ここで生きていくのはおぬしも同じだろうが。何を、他人事みたいに言っている」
「…………」
「味方がいようがいまいが、われらが手を合わせば何も恐れることはない。アーク・ゴルドでも、最初はわらわとおぬしだけだった。あの時と一緒じゃ。なあ。そうだろう?」