……あの夜以来、メリフェトスの態度は至って普通である。あの時の動揺も慌てぶりも何もかもが幻だったかのようだ。

 だからアリギュラも、踏み込んで問いただすことが出来ずにいる。けれども、だからといって気にならないわけでは当然なくて。

(あの日のアレは、なんだったんじゃ)

 細い眉をむすりとよせ、八つ当たりのようにメリフェトスを睨む。

 あの時、これまでの自分達とは違う、何か特別な空気が流れた。そんな予感が、そこはかとなくしている。けれどもそれが何であるか、具体的にはわからない。わからない上に、確かめる勇気もない。

 だって仕方ないだろう。姿かたちが変わっても、アリギュラはアリギュラのままだし、メリフェトスはメリフェトスだ。共に戦い、共に支え、共に笑いあう。そんな膨大な歴史が、二人の間にはある。

 誰よりも信頼する臣下であり、友であり。それ以上に、口うるさい兄のようでありながら、時折放っておけない弟のようでもある。血よりも深い絆で結ばれた、唯一無二の絶対的相棒。

 それが揺らぐ日が来るなんて、どうして想像できるだろう。