「魔王アリギュラ!! 私は今日、お前という災厄から世界を取り戻す!!」
魔界の西奥、滅びの山の麓に立つ魔王城にて、勇者カイバーンは聖剣ロスロリエンをまっすぐに空に向ける。
敵陣真っ只中にあるというのに、カイバーンは声、姿、振る舞いのどこにも怯みはない。天使に遣わされた正義の使徒として、勇者は高らかに宣言する。
「お前や、お前の臣下によって人間が血を流すことは、もう二度とない!! お前に奪われたもののために、新たな涙が溢れることもない!! この夜を越えた先、朝日が昇るのは我ら人族の頭上にだ!!!!」
無数の雄叫びが、魔界の地を揺らす。勇者の後ろに連なる何千、何万もの兵が、剣を手に答えたのだ。
だが、直後、赤黒い空に稲光が走った。ざわめきが広がる中、誰かが魔王城を指さす。
「魔王だ!!」
「魔王が現れた!!」
彼らが指さす先。その先には、巨大な羽根を広げた女の影。足に届くほどの長い髪は、影そのもののような漆黒。対して肌は蝋のように白い。覗く面差しはこの世の者とは思えないほど美しく、思わず跪いてしまいたくなるような畏怖の念を見る者に与える。