もはや、これまでかもしれないな。
腹に打ち込まれる鈍痛と、頭を揺さぶる衝撃。その両方を交互に与えられながら、『彼』は霞む思考のなかでそんなことを考えた。
すでに抵抗する力も、気力もない。けれども人間たちは、そんな『彼』を解放してはくれない。
「おら、起きろよ!!」
一際強く腹を蹴られ、息が詰まった。ついで襲うのは迫り上がる吐き気。身体を二つ折りにし、げほごほと咳き込むと、三人の人間のうちひとりが「うげえ」と顔を顰めた。
「汚ねえな。こいつ吐きやがったぞ」
「おいおい、見てみろよ! ステータス上昇、ハンパないって!」
別のひとりが宙に浮かぶ半透明のガラスのようなものをみて、声を弾ませる。それにつられて、他の人間たちの関心もしばし『彼』から離れた。
クソどもが。口の中に滲む血の味に顔を歪めつつ、内心で吐き捨てる。
ステータス。人間、とりわけ冒険者と呼ばれる者たちは、その数値に非常に重きを置いている。
冒険者たちが気にするのは戦闘力や魔法力だ。それらは経験値を積めば積むほど上昇するらしく、彼らは躍起になってレベルアップに勤しむ。
そんな彼らが、経験値を集める方法。それは、魔族狩りである。