「なんじゃ。さっきも言っただろう。聞いてなかったのか?」
仕方ないなと言った様子で、アリギュラは苦笑する。腰に手を当てて本格的にこちらを向いた彼女は、ふっと笑みを漏らして告げた。
「好きだからじゃ、おぬしのことが」
「っ!」
「この世界に来て初めて、人間を好きだと思えた。だから、簡単に折れてくれるなよ。またわらわと遊んでくれ」
そう言って歯を見せて笑ったアリギュラは、聖女と呼ぶにはあまりに無邪気で、眩しかった。
さらりと黒髪をなびかせ、アリギュラは神官を連れて去っていく。その背中を見つめながら、キャロラインはとくとくと胸が鼓動を奏でるのを感じた。
「……ジーク様のお気持ち、しかと受け止めますわ」
しばしの沈黙の後。聖女が消えた人波を眺めたまま、キャロラインがそっと答える。その声には乙女の恥じらいが滲んでおり、ジーク王子の心を弾ませるには十分だった。
頬を染め、ジーク王子はそっとキャロラインの肩を抱こうとする。
「キャシー、じゃあ……」
「ですが!」
肩に手が触れようとする刹那、キャロラインがぱっと振り向く。薔薇やら百合やら様々な花を背負っていそうな恋する乙女の表情で、キャロラインは夢見るように小さな手を握り合わせた。