「い、いいいいいやでございます! 私はこれ以上、聞きたくありません!!」
「待って、キャシー! 大事な話なんだ!」
「で、ででででも、ジーク様との婚約を破棄だなんて、私そんな……」
不意に、頬に柔らかなものが触れた。目を丸くしてそちらを見れば、ジーク王子のきらきらと輝く金髪と、閉じられた瞼を縁取る長いまつ毛が視界に飛び込んでくる。
ちゅっと、キャロラインの頬からジーク王子の唇が離れる。あまりのことにぽかんと放心するキャロラインに、ジーク王子は頬を染めて目を逸らした。
「君の頑張り屋なところを、好ましいと思っている」
「……?」
「負けず嫌いなところもいじらしいし、常に上を目指して向上心を忘れないところは尊敬している。そんな君が、僕のために嫉妬してしまうのも……そういう一面は、今日初めて知ったけど。正直、喜んでしまった僕がいた。君は、あまりそういうのを気にしないと思っていたから」
「……? ……???」
「たしかに僕は、アリギュラ様に惹かれた」
衝撃のあまり頭に何も入ってこなかったキャロラインだが、聖女の名が出たことで我に返った。びくりと怯えの色を滲ませる婚約者の頬を撫で、ジーク王子は困ったように微笑んだ。