「聖女様をお相手に、私が意地になっていたのは事実ですわ。それがジーク様に伝わり、疑念を抱かせてしまったのでしょう」

「だが、」

「私も貴婦人として、まだまだ精進が足りない。そういうことですわ」

 そう言って困ったように笑ったキャロラインの表情は、朗らかですっきりしたものだった。すると、ジーク王子が何やら声を詰まらせた。

きらきらとそつのない、いつもの完璧な王子様ではない。どこかソワソワと、年頃の青年らしく目を泳がせるジーク王子に、キャロラインは小首を傾げる。そうやって見守っていると、ふとジーク王子が小さく咳払いをした。

「そ、その。君に、はっきり言っておきたいことがあるんだ」

「? なんでしょう」

 いつになく言い淀むジーク王子に、キャロラインはますます首を傾げる。……が、ひとつの可能性に思い当たり、すーっと顔が青ざめた。

(ま、まさか……。私との婚約を破棄し、聖女様と結婚すると言った内容では!?)

 瞬時に血の気が引いたキャロラインは、淑女としての仮面をぽいと放り出した。耳を塞いだ彼女は、半泣きになってぶんぶんと首を振った。