「……と、いう次第のようだが?」
指を鳴らして煙を霧散させる。そうやって、唖然とする人々を愉快そうに眺めてから、アリギュラはにやりと意地悪く笑った。
一方、すっかり青ざめた小柄の令嬢――ヘレナは、カタカタと震えながら尚も叫んだ。
「い、いかさまですわ! 私たちは、こんなことしていません! 私たちを貶めるために、聖女様が嘘の光景を再現したのですわ!」
「おい、娘。貴様、我が君に何を」
「いや、違う」
一瞬メリフェトスが気色ばむが、それに被せるようにして意外な方向から援護が入った。皆がそちらを見ると、いつの間にか輪の中に入って床を検分していた細身の男――王宮魔術師クリス・レイノルドが、小さく首を振った。
「今のは空間記録術。その空間に残る残滓から何があったかを再現する魔法だよ。それも最高位クラスの。魔法陣を調べたけど、一級の王宮魔術師が束になって半月以上かけるくらい完璧な術式だった。いまの再現に、間違いなんかあるわけないよ」