「しょ、少々の誤解があったとしてもです! キャロライン様が、憎しみの籠った顔で聖女様にケーキを投げつけたのは事実です。おかげで、さっきまでメリフェトス様がクリームまみれになっていたではありませんか!」
「ご心配どうも」
魔法でひっぱられたせいで変に跳ねてしまった髪を撫でつけながら、うんざりした顔でメリフェトスが呟く。それには耳を貸さず、アリギュラは冷めた顔で軽く肩を竦めた。
「それも、おぬしらの狂言じゃろうが」
ぱちんとアリギュラが指を鳴らす。途端、あたり一帯の地面に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「な、なんだこれは!」
人々の間に悲鳴があがる。ジーク王子やアランをはじめとする騎士らが人々を宥める中、アリギュラは赤い瞳で魔法陣を見下ろし、淡々と詠唱した。
「――汝が記憶を炙り出せ。空間記憶!」
ふわりと、さきほどキャロラインが転んでいたあたりに、白い煙がたち登る。すぐに人型にかわったそれは、キャロラインの姿となった。
彼女の手には、数種類のケーキが載った大皿がある。――さらにキャロラインの後ろに3人分、別の煙が人型を作る。それらはあっという間に、キャロラインを糾弾していた三人の令嬢の姿になった。