冗談のつもりで、アリギュラはにやりと笑ってメリフェトスを見上げる。そんな主人に、メリフェトスも照れ臭そうに頭の後ろに手をやりながら、軽く笑い飛ばす。
――否。笑い飛ばそうとした。笑っていたはずの彼は、なぜかそこでぴしりと凍り付いてしまった。
愕然と、みるみるうちにメリフェトスの顔から笑みが溶けていく。アリギュラが呆気に取られて眺めていると、彼は唐突に、両手で顔を覆ってしまった。
そのまま動かなくなってしまった彼のせいで、その場に妙な沈黙が満ちる。そわそわと落ち着かない心地がして、アリギュラは慌てた。
「お、おい。どうした? ほんの冗談だぞ?」
「……忘れてください」
「いや、何をじゃ!? 変なところで黙りこくるな! おぬしのせいで、なんだか変な空気になってしまったではないか!」
「申し訳ありません、我が君。謹んで、お忘れ願います」
「くそ!」と。顔を覆ったまま、もごもごとメリフェトスが毒づく。妙に思って、アリギュラは眉をくいとあげる。――そして、気づいてしまった。メリフェトスの耳は真っ赤に染まっていた。