一方、アリギュラと言えば。
(なるほど。見つめるときは上目遣いに。腕を絡めるときはさりげなく胸を押しあてる、と)
メリフェトスが思っているとは若干異なる方向で、熱心にカップルたちを観察していた。
知っての通り、アリギュラの恋愛経験知はゼロ。そのため、何をするにも初心で奥手な魔王である。
そんなわけで、こちらの世界に来てからというものの、忌々しい聖女の役割のせいで、すっかりメリフェトスに舐められている気がする。
このままでは魔王としての権威失墜。そろそろこの辺りで、メリフェトスに一泡吹かせたいところだ。
(見ておれよ、メリフェトス。自分ばっかり、ちゅっこらちゅっこら、わらわを動揺させおって。おぬしの鼻を明かして、真っ赤になったところをせいぜい笑ってやるわ!)
アリギュラはそのようにほくそ笑む。……そんな真っ黒な我が君の胸中を知りもせず、メリフェトスは違う意味で動揺していた。
(我が君が恋愛ごとに興味……? 三度の飯より戦が好きなアリギュラ様が? 男を見て、顔よりも強そうかどうかに関心をお持ちのアリギュラ様が?? 宝石を贈られるより火薬や剣を贈られた方がにこにこするアリギュラ様が???)