思わず声を弾ませ、アリギュラは顔をにやけさした。

「水臭いではないか! わらわとおぬしは、ともに胸の底にたまるものを吐き出しあった仲であろう?」

「あれ? キャシー? 君は以前に、聖女様とお会いしたことがあるのかい?」

「ローナ聖堂に母と伺ったときに、偶然ですわ。あの時は、名乗りもせず立ち去ってしまい、大変失礼をいたしました」

 よどみなく答えながらも、キャロラインの紫色の瞳はまっすぐにアリギュラを見据えている。その勝気なまなざしに、アリギュラは背中がぞくぞくとした喜びが走るのを感じた。

(いい。いいぞ、この目だ……!)

 女々しく泣き言を述べるのではなく、怒りに燃えて立ち上がらんとする気骨。誇りを傷つけられて尚、真っ向から挑もうとする心意気。まさか、その対象が自分に向くとは思わなかったが、そんなキャロラインの気位の高さに、アリギュラは惚れたのだ。

(そうだ、『悪役令嬢』。正々堂々、わらわに挑め。挫けず挑むそなたの姿は、何者より輝いているぞ)

「あ、あの、聖女様? キャシーも……ふたりとも、どうしたんだい?」

 困惑するジーク王子をよそに、今度はアリギュラとキャロラインが睨みあう。緩んでしまう頬をもはや隠そうともせず、アリギュラは魔王としてふさわしい笑みを浮かべた。