「おい、メリフェトス。人間とじゃれておらんで、わらわに説明せい。ジークはどうした? こやつよもや、腹の底で何か謀っているのではあるまいな」
「ちょっと我が君は黙っていてください。私は今、男と男の真剣勝負の最中ゆえ」
「どこがじゃ。ていうか、そもそも何を争っているんだ、うぬらは!」
状況がさっぱりつかめないアリギュラは、ぎゃーすと怒る。
と、そのとき、わざとらしい咳払いが響いた。
「こ、こほん! こほん、こほん! こぉっふぉん!!」
「あ、ああ! すまないね。紹介が遅れてしまった」
声をきいて、ようやくジーク王子は連れがいることを思い出したらしい。慌てて立ち上がった彼は、少し後ろで待ちぼう……控えていた令嬢を手招きした。
「おいで、キャシー。アリギュラ様。彼女は大臣の娘で……」
「ジーク殿下の婚約者を務めさせていただいております。ダーシー家の、キャロラインと申しますわ」
ジーク王子の後を引き継ぎ、恭しく礼をする令嬢がひとり。と、思いきや、頭の両脇にぶらさがる縦ロールをぶんと揺らし、令嬢はキッとアリギュラを見る。