「聖女様だ!」
「聖女様……」
「なるほど、あの方が」
「聖女様! 我らが救世主!」
人々の目に映るのは、付き添いの神官を従えた、ひとりの小柄な少女。ツンと尖った鼻に、小さく形の良い唇。そんな愛らしい造りとはアンバランスなほど、はっと目を引く力強い赤いまなざし。
言うまでもなく、異世界から召喚された聖女にして魔王、アリギュラである。
カツン、と。再び、アリギュラは音色を響かせ、次の一歩を踏み出す。余裕の笑みを浮かべた彼女が身に纏うのは、黒と緑のドレス。およそ聖女のイメージとは程遠い色合いだが、なかなかどうして、アリギュラにひどく似合う。
彼女が足を踏み出すたびに、さらりとした黒髪が後に引かれるように揺れる。その堂々とした佇まいに、人々はほぅと感嘆のため息を吐いた。