……まあ、調子が狂うのも無理はない。アリギュラは現在、人間の娘に姿が変わっている。その姿形は魔王として君臨していたときというより、メリフェトスと出会って当初の幼い魔物だったきに近しい。その分、愛らしさが増し増しになっているのだ。

 だからといって、己の分をわきまえなければならないことに変わりはない。メリフェトスが攻略対象者としてアリギュラのパートナーに収まったのは、あくまで主をほかの攻略対象者から守るため。言うなれば、男避けのための仮初のパートナーである。

(……そうだぞ、メリフェトス。先の戦闘で、我が君の輝かしい勇姿を見たせいだろう。すでに何人かの攻略対象者が、アリギュラ様に関心を抱いている。我が君をお守りするために、俺が腑抜けていてどうする!)

 はあーっと。先ほどよりも大きく、メリフェトスは溜息を吐く。それから、まるで呪いをかけるときのようにぶつぶつと低い声で繰り返した。

「俺は仮初のパートナー。俺は仮初のパートナー。いいか。俺は仮初のぱーと……」

「あ、あのメリフェトス様?」

 その時、背後から別の神官に声を掛けられる。聖女に関する報せを運んでくる、伝令役の三級神官だ。仕方なく呟くのをやめて、メリフェトスは振り返る。

「……なー。俺は仮初の……なんだ?」

「あ、あの。夕刻の祈りの時間でして、その」

「ああ。そういうことか」