奥手なアリギュラを怯えさせないため、そして「聖女の役目のため、致し方ない感」を出すために、なるべくキスは淡々と、機械的にするように心掛けている。けれども、そんな化けの皮が剥がされてしまうのも時間の問題だ。
正直、めちゃくちゃ可愛い。可愛くて、もっともっと困らせたくなる。
一瞬、頭に浮かんでしまった考えに、メリフェトスはかっと目を開く。直後、喝をいれるべく、メリフェトスは躊躇なく自分の頬を張った。
「!?!?」
すれ違った別の神官が、ぎょっとした顔でメリフェトスを見る。そそくさと神官たちが逃げていくのをよそに、メリフェトスは壁に拳を突き立てて寄りかかった。
(落ち着け、落ち着くんだメリフェトス。相手は我が君だぞ。わが生涯を追捧げすると誓った、敬愛するアリギュラ様だぞ。それを俺は、いったい何を考えて……)
眉間に皺をよせ、メリフェトスは衝撃でずれたモノクルの位置を直した。