アリギュラが初心であることも、十分理解していたつもりだった。だからこそメリフェトスは、見ず知らずの、それも人間どもに彼女を触れさせるよりはと、自分が聖女のパートナーとなるようアリギュラを誘導したのだが。

(まさかキスひとつで、あそこまで初々しい反応をなさるとはな……)

 瞼の裏に蘇った姿に、メリフェトスは思わず足を止め、くっと声を漏らした。

聖女のキスを交わすたび、アリギュラは顔を真っ赤にし、子猫のように毛を逆立てる。昨日になんかは、羞恥に潤んだ瞳を逸らしつつ「はやく、済ませてくれ……」などと呟くものだから、思わず真顔になった。あんな恥じ入り方は、完全に逆効果だ。男のハートに、これ以上火をつけてどうする。

その時のことを思い出し、メリフェトスはつい頬が緩んでしまいそうになる。そんな自分を戒めるため、メリフェトスは精一杯しかめ面を作った。

 さすがにキスくらいは経験があるだろう。そんな風に楽観的に考えていたのは、自分の落ち度だ。加えて、いちいち初々しい反応を返す主に翻弄される今の状況。

(アンデッド狩りがアンデッドになるどころの騒ぎじゃないぞ、この馬鹿メリフェトスが!!)

 内心叫びながら、メリフェトスは頭を抱えて天を仰いだ。