「…………はぁ」
その時、メリフェトスが溜息を漏らした。モノクルの奥で一度視線を落とした彼は、物思いにふけるように窓の外に顔を向けた。
先ほどまでの、どこか近寄りがたい、気品に満ちたオーラとは異なる。どこか物憂げで、隙を感じさせる仕草に、見ていた巫女たちはズキュンと胸を打たれた。
「な、なななな、どうしたのかしら、メリフェトス様ってば」
「悩みがあるなら、私たちに相談してくださればいいのに……っ」
憧れの上級神官の艶っぽい姿にもじもじとしつつ、といって声を掛ける勇気は出せない新米見習い巫女ふたり。
――そんな彼女らをよそに、メリフェトスはぼんやりと椅子に背を預ける。
(…………何も、頭にはいってこないな)
窓の外をなんとなしに眺めつつ、メリフェトスは内心で鬱々とぼやく。
この世界についてより深く知るために書庫に来たが、すっかり時間を無駄にしてしまった。さっきから、ページをめくっては戻り、ページをめくっては戻りを繰り返している。こんなことでは、魔王軍一の知将の名が廃れてしまう。
けれども、仕方がない。なぜならメリフェトスは今、強大な悩みを抱えている。