王都アルデールにある聖教会の総本山、ローナ聖堂。日々、王都のあらゆる身分の人々が礼拝に訪れるその地は、同時に、聖職者たちが住まう場所でもある。
その一角、エルノア国の歴史や神話などが記された書物が多数納まる書庫にて。魔王アリギュラの腹心の部下――もとい、一級神官メリフェトスは、古びた書物のページをひとりめくっていた。
神官の印である白い装束を身に纏い、広い書庫の中央にある閲覧スペースに腰かけるメリフェトス。青紫色の瞳で真剣に文字を追い、時折、さらりと零れる髪を耳にかけなおす姿は、妙に色っぽい。
そんな彼の姿に、居合わせた二人組の若い巫女が、書棚の影で頬を染めた。
「メリフェトス様、今日も麗しいわ……っ」
「何をお調べになっているのかしら。真剣な表情も、すごく素敵ね」
女神が世界を書き換えたことにより、メリフェトスは周囲の人間から、以前よりこのローナ聖堂に務めていた神官として認識されている。そのため、突然現れて聖女のお世話係という大役を与えられているメリフェトスのことを、疑問に思う者は誰もいない。
それどころか、攻略対象者として申し分のない完璧な美形としてこの世界に加えられた彼には、女性たちから熱烈な視線が向けられていた。