「……ああ。我が君の名君としての資質が、ここまで恋愛方面の勘を残念なものにするとは。ここまでくると、もはや天然記念物ですよ」
「おい。何か言ったか?」
「いいえ、何も」
ぶつぶつと何かを――おそらく悪口である――を呟くメリフェトスに、アリギュラは声を低くする。けれどもメリフェトスは、気を取り直したようにしれっと元の姿勢に戻った。
「なんにせよ、去り際の言動から見ても、あの娘が悪役令嬢キャロラインであり、アリギュラ様を恋敵と認識したのは間違いありません。だとすれば、彼女が必ず、再びアリギュラ様の前に姿を現すでしょう」
「それは本当か!」
ぱっと笑顔の花を咲かせ、アリギュラは声を弾ませる。そんな主に微妙な顔をしつつ、メリフェトスは頷いた。
「ジーク王子ルートにおける、キャロラインとのエンカウント率は異常と、女神からも聞いております。あの娘は必ず、恋敵を排除するためアリギュラ様に突っかかってくるはずです」
「よい、よい。また会えるのであれば、わらわは一向に構わん」
足を組み、細い指を絡める。そうやって、実に悪魔らしい不敵な笑みを浮かべ、アリギュラは異世界でできた初めての友達のことを想った。
「ふふ、キャロラインか。そなたが訊ねてくる日を、わらわは楽しみに待っておるぞ」