「そ、そうでしたわ。カラスの濡れ羽色の髪に、ルビーのような美しいまなざし。愛らしくも凛々しい面差しは目を離せなく、話す声も小鳥のよう……。ぜんぶ、ジーク様が仰っていた通り。どうして私、気づかなかったのかしら……?」
「お、おい、娘? どうかしたか? 腹でも下したか??」
純粋に心配して、アリギュラは問いかける。けれども娘は、きっと目を吊り上げると、こともあろうかビシリとアリギュラを指さした。
「聖女アリギュラ様!! 私は決して、決してあなたに負けません!」
「は!?」
「ジーク様は、あなたに渡しませんからーーーーー!」
捨て台詞を残し、娘は縦ロールをぶんぶんと揺らしながら、すごい勢いで駆けていく。呆気にとられたアリギュラが、引き留める間もない素早さだった。
「なっ、なっ、なっ……」
メリフェトスに抱えられたまま、アリギュラは成すすべもなく娘の背中を見送る。せっかくできた異世界の同志の姿が完全に見えなくなった頃、ようやく我に返ったアリギュラは、訳も分からず叫んだ。
「なんだ、おぬし!? どこの誰だーーーーーー!?」