***

不思議なことにヴァイルに乗って宙を舞うということに恐怖心を抱くことなく、ヒューリに支えられたまま風を切っていくと、あれだけ明るかった洞窟内が急に光を失っていく。

細い入り組んだ道に進んだヴァイルに、ヒューリが何かを唱えると六角形に象られたクリスタルが姿を表した。そのクリスタルが何かに反応すると、洞窟の厚い壁がゆっくりと解き放たれる。そこに広がる広大な土地にイリアの口は自然と開き、瞳がキラキラと輝いた。

「これが地下世界、カデアト……」

頭上の遥か彼方には地上と同じような空のような空間が広がり、太陽の光が燦々と降り注ぎ風達は踊る。自然豊かなこの土地にイリアは感銘を受けた。

地下にこんな空間があることなど、地上に住まう人間は誰一人として思い描かなかった。否、常識から外れたこの世界の存在を、知るはずもない。

「大賢者様が作り出したもう一つの世界にようこそ」

「想像より遥かにすごい所で驚きが止まらないわ」

肌で感じる新鮮な空気をイリアは肺いっぱいに取り込むと、流れ込んでくる不思議な力を感じた。

「なんか、体が軽い?」

「テリウルの粒子が含まれているから、自然と体内に魔力を与えてくれるんだ」

「テリウル……って、待って?」

イリアはヒューリがさらっと言い放った言葉に、驚きを隠せずヒューリの手を掴んだ。

「今、なんて言った?」

「テリウルの粒子が含まれているから」

「そこじゃなくて、その後に言った言葉!」

「体内に魔力を与えるって……もしかして、魔法を知らない?」

当然のように淡々と喋るヒューリの顔は、至って真面目だ。