ただ簡単に諦めるようなイリアではない。ドラゴンが目の前でこうしていること自体、ロットには掴むことのできなかった結果なのだ。

イリアが導き出した答えの途中式に、ドラゴンはやって来た。

「……そう言えば、どうしてヒューリは怪我までしてあの森へやって来たの?」

数年ネグルヴァルトにて研究してきたイリアだったが、今日という今日までドラゴンという存在には出会うことはなかった。それがいきなり飛び出してきたかのように、イリアの前へと現れたのには理由があるはずだった。

「簡単に言えば、救いを求めて……と言うべきか」

「え……?」

「俺達、クルスデル族の祖先は地上での生活をしていたという。だが、腐敗した地が人々を襲い、賢者デウス=アリウムは地上で生活するドラゴンとそこに住まう人々を地下へと非難させた。それがこのカデアト。俺達が生きれる最後の地なんだ」

ヒューリは空というものがないにも関わらず、透き通る風が吹き抜け明るいクリスタルが耀くこの洞窟内を見上げた。

そこで華麗に泳ぐように飛ぶドラゴン達が、ヒューリの瞳で揺れた。

「地上はもう人の住める場所はないって代々言われ続けてきて、俺達はここでずっと平和に生活してる。ただ……ここ数年でドラゴン達の翼が謎の腐敗を始めたり、病で倒れる人が増えたりと俺達を脅かし始めているんだ。そこでどうにかこうにか治療法がないかって、死ぬ覚悟で地上に薬を探しに行ったんだ」

静かに語るヒューリの手をイリアは無意識に取った。
何かに諦めるようなその表情に、イリアの瞳には光が宿る。

「聞いて。あの森は確かに人の命を奪う危険性がある。でもね、今はあの森は大陸の極々一部にしかない比較的小さな森なの。それ以外の国や大陸には今は人々を脅かすような腐敗は進んでない。だから、諦めて欲しくない」

芯のあるイリアの声に、ヒューリの瞳にもその光が映し出された。