6限が終わるなり西さんが俺の席にやってきた。


 「数学のノート貸してくれない? お代はこれで」


 そういって差し出されたのは、一冊の本。


 「安心して、ちゃんと最後まで誰もいなくならないものを選んだから」

 「あ、ありがとう」


 西さんのオススメの本と、俺の汚い文字で書かれたノート。どう考えても不釣り合いだが彼女がそれでいいというから仕方ない。本を受け取り、端の少しヨレたノートを渡した。




 「葵くんって、教室ではあんな感じなんだね」


 放課後、西さんが保健室で必要な処置を受けているところに同席した。まず痛み止めの服用、それから枯れている花を丁寧に摘んで、キレイに整えて、最後は洗浄して清潔に保つ。まるで生きた花壇のようだった。

 さすがに俺は出ていくと強く言ったけれど、初めて出会ったときに私の胸を見たんだから何をいまさら、と西さんに言われてしまった。

 思い出しただけで申し訳なさで気が狂いそうになる。


 「宗谷くんはいつも先生に追い掛け回されている印象がありますね」


 西さんの薬を細かくチェックしながら、先生が言う。


 「そんなことないですよ!!」


 追いかけられるのはたまに、だ。例えば購買に早く行きたいからって階段を3段飛ばしで降りてしまったとか、掃除のときにモップが絞り切れてなくて廊下をびしゃびしゃにしてしまったとか、そんな感じ。

 先生はよく些細なことで追いかけ回してくるから、こっちはたまったもんじゃない。


 「あはは、いかにもわんぱく少年って感じ!」

 「笑わないでよ……体育科の先生に追いかけられたら生きた心地しないんだって」
 「愛されてるって証拠じゃない?」

 「そうならもっと他の方法で愛情表現してくれよ!!」