このクラスの人はみんな優しい。


 「ふぅ、大変だった……」


 形だけでもと思って正していた背筋を丸める。肺の中に溜まっていた空気を吐き出すと、少しだけ体が軽くなった。


 「最後のほう、めっちゃ葵の成績褒めてたよな。勉強できると叱られても軽くで済むから得だよなー。ずりーのなんの」


 栗ちゃんが恨みがましそうに言う。これには隣の席の女子も苦笑いだ。


 「だから言ってるだろ、栗ちゃんも授業中寝るなって。そしたらミジンコみたいな成績もちょっとは上がるんじゃね?」


 栗ちゃんは赤点常習犯で、決まり文句は「世の中勉強ができるからといってうまく生きていけるわけじゃない。俺は勉強以外の人間性を育てるために学校に来ているのだ」だ。面白いくらいに、勉強をしたくない学生の典型みたいなことを言う。

 1限は数学。いきなり眠い教科だ。栗ちゃんは机の上に教科書こそ出したけれど、そこに筆記用具は見つからない。言ったそばから寝る気だ、こいつ。


 「ねぇ、葵くん」


 さっきのお返しに小言でも言ってやろうと思ってた矢先、肩をトントンと叩かれた。

 耳なじみのある声に呼ばれ、後ろを振り向くとそこには栗ちゃんが絶賛していた美少女が立っていた。