「今でも病気は完治していません。激しい運動はできませんし、ボディタッチは避けるようにしてください。他、何か西さんの方から伝えることはありますか?」

 「いえ、特にありません」


 いつも聞いているより、少しだけ高い声が教室に響き渡った。大きな部屋では、彼女の真っすぐで力強い声は良く通る。


 「ご迷惑をおかけしますが、改めてよろしくね」


 かわいらしくそう言った彼女に、たぶん男子ほぼ全員が撃ち抜かれた。


 「おう……もうなんでも手伝ってやるよ……奴隷のようにな……」


 頭を抱えた栗ちゃんが、小さな声でつぶやく。

 目がマジだ。

 何か困ったことがあったら栗ちゃんに真っ先に相談する西さんを想像してみた。

 少し上目遣いで、「栗原くん、これ持ってくれないかな?」「栗原くん、この本面白いから読んでみてくれない?」「栗原くん……」


 「おえぇぇぇ……」


 途中で妄想をかき消した。ダメだ、耐えられない。

 甘い顔をしたふたりをそばで見る俺。ふたりは俺のことなんて目もくれず、はちみつみたいな世界で愛を囁き始めた。

 無理無理無理無理。


 「なんだよ」


 俺の脳内で随分と暴れてくれた栗ちゃんをにらみつける。俺の負の気持ちは届いたようで、彼が怪訝そうな顔をする。