「そういやお前、前に西さんのこと気にしてたよな。何か知ってるんだろ?」

 「知ってるけど、お前には言わない!!」

 「ケチくせぇなぁ。なぁにかわいー顔してんだ、葵ちゃんよぉ」


 栗ちゃんが、はっ、と肺の中の空気を出すように笑う。

 教室内のざわめきを塗り替えるように、朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。人の塊がだんだんとほぐれていき、輪の核が姿を現す。

 しゃんとした姿勢で椅子に座る西さん。その顔は放課後に見るときよりかなり疲れているように思えた。久しぶりに教室に来たと思ったらあの仕打ちだ。俺だって疲れるだろう。されたことないけど。


 「はい、みなさんおはようございます」


 先生が入ってきて、教卓の上にプリントの束を置く。青いシャツ黒のスラックスといった出で立ちの若い男性教師。さっきまでの余韻がまだ抜けきらないみんなを視線でいさめてから、ごほんとひとつ咳払い。


 「気づいてると思いますが、今日から西さんが教室で勉強します。そこで、ひとつみなさんに連絡です。西さんは一見健康体のように思えますが、先日まで重い病気で満足に動くことができませんでした」


 少しずつ、黒い点が動き始める。

 どよどよ、ざわざわ。

 さっきあれだけ囲まれておいて、西さんは身体のことを何も言っていなかったようだ。