「栗ちゃん! 危ないって!」

 「大丈夫だって見えてるから」


 器用に人の波を避けて歩く。俺には到底できそうにない芸当だ。

 そこまでして見なければならないことってなんだ?

 そう思って栗ちゃんのスマホを覗き込んでみると、そこに表示されていたのは見慣れたメッセージアプリの友だちリストだった。


 「どしたん?」

 「顔広そうな友だち探してたんだけど、西ってそういうタイプじゃないなぁって思ってさ。連絡先交換しよって言われてものらりくらりと躱しそうだし」

 「まぁな。ガード固いなぁとは思う」


 諦めたのか、栗ちゃんがスマホをポケットに突っ込んだ。昇降口につくと、何かよくわからない人の塊が俺たちの下駄箱の前でたむろしていた。


 「なんだあれ」

 「あー、オレの後輩だわ。ちょっと待ってて」


 よく見ると上靴の色が違う。俺たちは赤色、彼らは緑色だった。

 栗ちゃんが集団に突っ込んでいくと、そこに道が開ける。あれみたい、モーセの……海開きみたいなやつ。

 どうやら彼らのお目当ては栗ちゃんだったようで、栗ちゃんを囲んでしばらく話をしたあとにぞろぞろと帰っていった。


 「すまんな。今度の試合の日程について質問があるんですけどー、だと。邪魔になるからあんな大人数で来るなって言っといたけど」

 「楽しそうでいいんじゃね?」


 青春ってあんなもんだろ、と言うと栗ちゃんに背中を殴られた。

 今日俺の背中すごい狙われるんだけど、なんで?


 「お前なかなかクサいこと言うじゃん。オレそういうの大好きだぜー!」

 「……いてぇんだよっ! まぁお気に召したのなら嬉しいこった」


 そのまま肩を組まれ、学校を出た。さすがに途中で通行人の視線が痛くなって離れてもらうように言ったけれど、久々の人の熱に触れられて少し嬉しかった。