栗ちゃんが作ってくれた作戦メモは、どれも実現できそうにないものばかりだった。すべては俺のスマホがスマホとして機能していないことに問題があるんだけど。


 「オレだって西の連絡先知らねぇんだから。お前付き合ってんのに連絡先すら交換してなかったのかよ」


 世間的に見れば変な話だろう。恋人同士なのに連絡先を知らない。そんなこと、今の時代では考えられないことだ。

 でも、スマホは俺の家が普通と違うことを相手に否応なしに感じさせてしまうものだ。俺の家の事情に、西さんを巻き込みたくない。


 「畔塚さんはどうだろう……」

 「それいいじゃん、訊いてみようぜ」


 ほら行って来いよ、と背中を押された。強い力を受けて少しだけよろけてしまったけれど、なんとか踏ん張って教室の後ろ側で箒を持って掃除をしていた畔塚さんに声をかける。


 「あの、畔塚さん、ちょっといいかな?」

 「あー宗谷くん、ちょうどよかった。華香のこと、何か知らない?」


 この一言で、畔塚さんも西さんの連絡先を持っていないことをなんとなく察した。

 箒を左右に動かす手を休めることはしない畔塚さんが、俺の方をちらっと伺い見てくる。