ゆらゆらとした優しい振動で目が覚めた。

 白く少しだけかたい枕から顔をあげると、こめかみのあたりが湿っている。大方、寝ている間にも涙を流していたのだろう。外気にさらされて冷えていく。

 重い瞼を上げると、そこにはいつも通りの優しい笑顔を浮かべた先生がいた。


 「よく眠ってたわね」

 「はい……」

 「とりあえず起こしてみましたけど、まだ眠い?」

 「ねむい、です」


 眠いというか、目を開けているのが億劫だ。水分をたくさん含んだ瞼はいつもの倍以上重くて、気を抜くとすぐに閉じてしまう。

 泣きはらしたの、いつぶりだろう。


 「今は16時です。ちょうど授業も全部終わって、みんなが部活に行き始めた頃なんだけど、宗谷くんは何も部活に入ってないのよね?」

 「はい」


 声も掠れている。一度咳ばらいをして、大切なことに気がついた。


 「先生……西さんは、もう来ましたか?」

 いつも掃除が終わったころに保健室を訪れて処置を受ける西さん。クリーム色のカーテンの向こうには誰の気配もなくて、ただ窓の外から野球部が準備体操をする声が聞こえてくるだけだった。


 「西さんはまだですよ。今日もお話してから帰りますか」

 「いえ、今日はいいです」


 昼のことを謝りたいというのもあったけれど、それ以上に申し訳なさが先行する。

 気持ちの整理がついていない。

 ごちゃごちゃとした感情が混ざって、どこに吐き出していいかもわからない。


 「先生、ちょっとだけ、話を聞いてもらっていいですか」


 これまで、俺に何があったかを一度も訊かずにそっとしておいてくれた先生。その優しさに甘えて何も語らないまま帰ることもできたけど。

 誰かに、知っていてもらいたい。

 先生はにこやかに笑った後、保健室の扉に不在の札と鍵をかけに行った。


 「静かにお話が聴きたくてね。鍵をかけましたが、それでも大丈夫ですか?」

 「はい。ありがとうございます」


 これほどに自分の話をしっかり聴こうという意思を見せてもらったのは久しぶりだ。俺はベッドから出て、パイプ椅子に腰かける。

 泣き腫らした顔をあまり見られたくなかったから、視線は落とし気味に。