「せんせ……ごめ、なさい……」


 人前で泣くなんていつぶりだろう。

 先生はそんな俺の姿を見て一言だけ、「疲れたのね。ゆっくり休みましょ」と。

 その日は残りの時間すべてを保健室のベッドの上で過ごした。

 ぱちぱちとパソコンのキーボードを打つ音が響くだけで、嫌なことは何もない。

 白いノリの効いたベッドから、かすかに花の香りがするような気がして、あの日触れ合った唇の温度を思い出す。

 それはすぐに、粘ついた記憶に絡めとられて、消えてしまった。

 意識を手放す前に瞼の裏に見えたのは、両親とひまりの今にも泣きだしそうな顔だった。