「……元気してるよ。立派なお嬢様に成長中」

 「葵の妹、びっくりするくらいかわいいんだよ。西も一回会ってみた方がいい」

 「え、そんなこと言われたら会いたくなるじゃん。今度おうちにお邪魔させてもらっていい?」

 「それは無理ッ!!!!!」


 思わず出た大きな声に、教室中が静まり返る。


 やってしまった。


 先日からの疲労がたまった脳では、この状況をうまく切り抜ける方法が思いつかない。いつもなら何かをやらかしてしまっても、面白おかしく場を持っていけるのに。

 あー、ダメだ。


 「ごめん、ちょっと体調悪いかも。保健室行ってくる」

 「おー。先生には言っとくわ」


 栗ちゃんが何かを察したのか、いつも通りの軽い調子で流してくれた。

 あとで謝らないと。

 保健室を目指して騒がしい廊下を歩くと、色々な人から声をかけてもらえる。


 大丈夫? 顔色悪いよ。

 保健室まで着いていこうか?

 お前、2組の元気印だからって遠慮してんなよー。


 すべての言葉に笑顔で感謝を伝え、何とか保健室までたどり着く。


 「あら、宗谷くん。華香ちゃんは一緒じゃないの……って、」


 それに続く、どうしたの。という先生の言葉。

 生暖かい雫がリノリウムの床に小さな水たまりを作る。

 おかしいな、今日は雨、降ってないのに。

 部屋中に響く嗚咽。目の奥が痛くなって、視界が滲む。鼻は外からの空気を拒むくせに、とめどなくはなみずを流す。うまく息ができない。


 そうか。


 俺、悲しいんだ。