「こんな朝早くに
 千柳が俺の家に来たってことは。
 雪那ちゃんのこと、泣かせてきたんだろ?」



 さすが幼馴染。

 俺のことはお見通しかぁ。




「千柳さ……大丈夫かよ……?」



 さっきまで俺に吠えていたのに

 いきなりの心配口調、やめてくれない?



 氷牙に、
 弱音を吐きたくなっちゃったじゃん。



 ため息混じりの声が、
 俺の口から漏れだした。




「好きな子の涙って、見るのが苦しいよね?」


「千柳の雪那ちゃんへの想いは、
『好き』で収まるレベルじゃないからな」




 それは、俺が一番よくわかってるよ。



 雪那のことが大好きすぎて。

 暴走しそうな自分が、怖いくらいにね。




「俺が泣かせたくせに。
 雪那のことを
 もう一度抱きしめたくなっちゃった」




 苦笑いを浮かべた俺に
「オマエも辛いな」と、つぶやいた氷牙。




 ソファに倒れ込む俺の前に
 コーヒーを置いてくれたけれど。



 自分の心の奥にある
 本当の苦しみまでは、
 氷牙に暴露できそうもない。

 
 吐き出すと同時に
 涙腺が緩みそうだから。