「じゃあ、何?」


 どうせ『僕は一生誰も好きにならない』とか
 言うんでしょ?



 ひと吠えした後。
 また、恥ずかしそうにうつむきだした天音。


 なんとか聞き取れるくらいの弱々しい声が、
 俺の耳に届いた。



「大事な人の宝物を奪うとか……
 絶対に……嫌だし……」



 え?

 大事な人って……俺のこと??



「千柳さんには感謝してるから……
 人の目が怖くて
 逃げてばかりの情けない僕に……
 変われるチャンスを
 用意してくれたこと……」



 恥ずかしそうに呟いた天音。


 体は震えていて。

 ゾルックに入ると宣言した今も
 怖くてたまらないんだと思う。



 でも、そんな恐怖を乗り越え、
 自分を変えようと
 必死に勇気をかき集めている。



 その姿を見て、
 俺の心の中に、熱い波が押し寄せてきた。