「天音……?」
「僕、器用だから。
前髪は自分でも切れるんだよ~」
そう言いながら、
瞳が隠れるほどの重い前髪を切っている。
「後ろの髪は、さすがに自分じゃ無理かぁ。
姉さんを呼び出すしかないね」
え? え?
天音の行動の意図が読めなくて、
俺は高速まばたきしかできない。
「千柳さん、固まってる時間はないよ。
本番まで、3時間半しかないんだから」
「本番って……」
ずっと重い前髪で瞳を隠してきたのに。
なぜ切っているのか
ちゃんと教えてくれないと……
「今日のライブの最後の1曲だけなら
僕、ステージに立ってあげてもいいよ」
「え?」
「千柳さん、今ので分からない?」
「何?何?」
「だから!今日のライブで、
僕をゾルックメンバーとして
紹介して良いって言ってるの!」
えぇぇぇぇぇぇぇ??
いきなりどうしちゃった??
だって天音は、
自分の過去が晒されるのが嫌で
ずっと『アイドル』になることを
拒んでたのに。