「うわっ」
 町田が心底気の毒そうにおれを見た。
 なんだよ。
「あのひとと親しくならないと」
 はぁ?
 町田の視線はあきらかにカウンターの彼女に向いている。
 だが、しかし、だ。
「おまえ意味わかんね。消えた王女さんと、あのひとと、なんの関係が?」
「だから! 王女さまが頭を下げてます。つらそうです。きっとあのひとを助けてほしいんですよ」
 あのひととやらに突き出しかけた人差し指を行儀よく引っこめて町田がうなる。
「そうか。加藤さん、見えないんでしたっけね」
「はい」
「どうしよう、おれ」
 どうしようはおれだ、町田。
 さっぱりわけがわからない。
「そうか」町田がこくこくとうなずく。
「加藤さんが見えないから、王女さまは段々に加藤さんを広げていたんですね。そうか、そうだったんだ」
「…………」
 ますますわかりませんが?
「加藤さんといれば、おれ…、こんな店にも入れる…から」
 だんだんしぼむ町田の声。
「…………っ」
 変な音をたてたのは、吸いこんだ息が胸でつかえたおれの喉だ。

 気づいてやることもできなかった。
 なにも考えずに町田をつきあわせていた。
 ひとの〈絶望〉が見えてしまう町田が、ひとごみになんか好きこのんで出てくるわけがない。
 おれにはくそつまらい日常生活も、町田にとっては命がけの大冒険だなんてこと。
 言葉にされていれば、おれは鼻で笑っただろうけどな。