頭のなかでガンガン文句を言ってやるのに。
 満席の店内の狭い通路を町田は大またに進んでいく。
 1階への細い階段にたどり着いたときにはもう、2階にいた客はほぼ全員がおれたちを見て、くすくすと笑っていた。
「くそっ」
 転びたくないので階段は自分の意思で下りた。
 下りたのにいきなり立ち止まった町田のせいで、おれの顎に町田の頭がヒット。
「いってぇぇ」
「いっ…たぁああ。気をつけてくださいよ、加藤さん」
 うしろ頭をこすりながら町田が振り向くのがアンビリバボー。
 おれのせいかよ。
「てめ、いきなりひとを引っ張りまわしておいて、なに…」
「し――っ」
 町田が唇に左の人差し指を当てて、右の親指でくいくいと差したのはカウンターの姉さんたち。
「なんだよ」
「真ん中のひとです」
「はぃい?」
 3人で接客をしているゼロ円スマイルの姉さんたち。
 さっき注文を通してもらったのは右端のレジのひとだったから、真ん中のひとは気にすることもなかったけど。
 卵形のさわりごこちがよさそうな輪郭と黒髪短髪、薄化粧のほっそりちんまり系。
 つまり五十嵐テイストで、まさにおれのツボだけど、どう見ても彼女は年上だ。
 30代? 落ち着いた接客ぶりが好ましいけど、だからなに?