「兄ちゃんは、ぼくを見つけてくれた。一所懸命に隠してたのに、いじめられてることにも気づいてくれた。今は兄ちゃんだけが、ぼくを本当のぼくでいさせてくれる」
「…………」
 返す言葉がなくて。
 黙ってただ頭をなでてやる。
 なでながら気づいた変化。
「――――ぼく? おまえ今……虎?」
 ふたりきりなのに?
 くすくす笑う子には、おれの前では思うまま、自由に自分らしくしろと言ってある。
「沙織さんが教えてくれたの。なんかアニメとかには僕っ子っていうジャンルの女の子がいるんだよ。『とんちゃん、大人になるまでコレでいっちゃいな』って沙織さんが。いっぱい動画を見せてくれたよ?」
 あ…の、女。
 おれのかわいい弟に、なにしてくれてんだ!
「でもね、兄ちゃん」おれのゆがんだ眉に気づいた子が、両手の人差し指で伸ばすようにおれの眉毛をなでる。
「ぼく、おかげで虎之介で真央で、ぼくになれた。言ってる意味…わかる?」
「…………」
「とんちゃんて呼んでくれる沙織さんが好き。真央って名前をくれた兄ちゃんが…好き。好きって言ってよくなったから、虎之介って呼ばれても…平気」
「…………」
 言葉もない。
「ぼく、がんばるから。みんなに奉仕できるボランティアなんかまだできないけど。一海さんや沙織さんみたいに、ぼくもいること……、ちゃんと思い出してね。つらいことをするときは」
「…………」