「…離して」

やっと動いた方から出たのはその一言。

ただひたすらに怖い。

しかし逃げたらそれ以上何もできない。

誰にも怯んではいけない。

怯んだら漬け込まれて終わりだ。

そう、だから僕は冷静を保たなければならない。

一度ゆっくりと瞬きしてから彼を見る。

彼は少しも表情を変えずに僕を見据えていた。

そして突然、「はぁ」とため息をついて僕の手を離した。

そして冷めた瞳で一言放つ。

「疑った僕が馬鹿だったよ…君みたいな
 貧弱そうな子に何かできるわけないね」

少しカチン、ときたのは黙っていよう。

しかし彼のいっていることも正論。

食欲がなかったため、二日に一回となった食事。

それでも食べる量はどんどん減ってきて。

一回の食事は一口二口程度。

そのせいで骨が少し浮き出てしまっている。

だから力も弱い。

それを見て彼は貧弱だと言ったのだろう。

否定はできないのだ、この姿では。

けれど頭は違う。

ずっとずっと人間を観察していたんだ。

どうすれば正解なんてすぐに考えられる。

こうすればこの子はこう言う反応。

こうすれば仲間外れにされない。

そんな事をずっと続けて自分の居場所を確保していた。

こんな姑息でも役に立つ。

だから僕は彼に言い返してやった。

「…そうだね、でも安心してよ、
 君みたいな早とちりはしないから」

少し、煽りを加えた口調で言う。

ふん、滑稽だ。

鼻で笑い飛ばして無表情に戻る。

少し怖いがこの際どうでもいい。

喧嘩腰なのは僕の悪い癖だが、別に構わない。

さて、これで彼はどう言う反応を示すのか。

彼は僕に向き直る。

すると、トン、と肩を軽く押される。

そのままぽすん、とベッドに倒れ込む。