「…きて、…起きて!!」


誰かの声で目を覚ます。

天国だろうか、なんて馬鹿げた妄想しながらゆっくりと目を開ける。

木造の天井に暖かみのあるオレンジ色の照明。

先程とは違う場所なのだろう。

それにしてもどこだろうここは。

先程の声の主は誰?

色々疑問はあるが一度落ち着こう。

そう、ゆっくりと起きあがろうとした、
しかし腹に激痛が走り、再びベッドに倒れた。

あぁ、そうか。

僕は森で刺されたんだ。

やっとのことで記憶が戻ってくる。

そして視界に登場したのは森で見た鹿の獣人。

エメラルドの瞳にはさっきの様な憎悪などは映っていなかった。

ただ綺麗な原石の様な瞳だった。

青年は、眉を八の字にし、謝罪の言葉を述べてきた。

「…ごめんね、お腹の傷は治療したよ」

なぜだろうか、なぜ僕の疑いが晴れたのだろう。

普通こんな簡単に信頼などされるものではない。

すると、青年は明るく振る舞いながら自己紹介を始めた。

「あ、ごめん、僕の名前はレウ。君は?」

…答えても良いものなのだろうか。

なんだか怖いので、僕は偽名を答えた。

「…僕は、セイル」

偽名、といっても漢字の読み方を変えただけだが。

すると彼、レウ…君はにこ、
と笑って僕の手を握る。

「これからよろしくね!」

屈託のないその笑みはなぜか僕を震えさせた。

裏表は誰しもあるものだ。

そんなものを僕は嫌というほど見てきた。

だから、分かるのだ。

誰でも、感情というのは顔に表れてしまうもの。

見てわかった、彼はまだ僕のことを信用なんかしていないことに。

ぎゅ、と握る力が強くなる。

「…なーんて、言うわけないでしょ?」

さっきの笑みはやはり嘘。

怖い。ただただ怖い。

そのうちどんどん笑顔が消える。

手を解こうとしても力の差があり、解けない。

冷たい空気が僕の頬をなぞる。

怖くて、辛くて、逃げ出したくて、
冷や汗が垂れる。

誰か、なんて叫びは届かないだろう。

そもそも誰かが助けてくれるなんて保証はどこにもありはしないのだから。