「うん……、そうだな……」

 そう言うなり、腕組みをして長~い溜めを作った純也さんに、愛美はものすごくイヤな予感がした。

「もしかして、全滅……?」

「……いや。確かに、この中の三作はちょっと、箸にも棒にもかからないと思った」

「はあ」

 彼の評価は思っていた以上に辛口で、愛美は絶望的な気持ちになった。
 四作中三作がボツをくらったら、ほとんど全滅のようなものである。……けれど。

「でも、この一作はなかなかいいんじゃないかな。応募したら、けっこういいところまで残ると思うよ」

 純也さんは表情を和らげながら、愛美に原稿を返した。

「えっ、ホントですか!? コレ、一番最後に書き上げたんです」

 純也さんが唯一褒めてくれた作品は、昨日書き上げたばかりのノンフィクション作品。愛美が実際に、今の学校生活で経験したことをもとにして書いたものだった。

「ああ、やっぱり。短編っていうのはね、数を多く書くことで内容もよくなっていくんだって。愛美ちゃんのもそうなんだろうね。全部の原稿を読ませてもらってそう気づいたよ」

「純也さん、ありがとう! わたしもこれで自信がつきました。この一作で勝負してみます!」

 これだけ手厳しい彼に褒められたんだから、きっといい結果が出ると思う。

「うん、頑張って! ――あ、手書きで大丈夫? 清書したいなら、僕のパソコン使っていいよ」

「ありがとう。でもいいです。わたしは手書きのまま勝負したいから」

 純也さんの厚意を、愛美は丁重に断った。

「それ、純也さんのお仕事用のパソコンじゃないですか。わたしが使わせてもらうのは、なんか申し訳なくて。だから遠慮します」

「そっか。――ところで愛美ちゃん、僕に何か相談したいことがあるって言ってたね。今ここで聞かせてもらっていいかな?」

「はい」

 愛美は原稿を傍らに置き、冷めたカフェオレを一口で飲み干すと、純也さんに話し始めた。